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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

バラエティに富んだ富山・福井の教育旅行プログラム(2023年12月号掲載)

2024-02-02
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 参与 松田 憲一、編集部 中出 三千代
月刊「教育旅行」2023年12月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


富山・石川・福井の北陸3県での教育旅行を推進する「北陸三県修学旅行誘致推進プロジェクト」が主催する、現地研修会に参加する機会を得た。富山県と福井県の施設等を訪れ、北陸での教育旅行の魅力を体験してきた。
富山県
○源ますのすしミュージアム

1500年以上の歴史を持つ富山の郷土料理・ます寿司。富山を代表する駅弁としても有名だ。その製造・販売会社「ますのすし本舗・源(みなもと)」は、明治四五(1912)年に駅弁として「ますのすし」を始めた老舗。富山市内の本社工場に併設された源ますのすしミュージアムでは、昔ながらの手作りでの実演や、実際の製造ラインの見学をすることができる。また、江戸から昭和に至る珍しい弁当容器や貴重な旅の携帯品、全国から集められた駅弁のかけ紙など、食文化や商品デザインを学べる展示も充実している。500席強のゆったりとした空間の食事処もあり、団体昼食会場としても利用価値が高い。

○富山県立イタイイタイ病資料館

富山県の神通川(じんづうがわ)流域で発生し、患者が「イタイイタイ」と泣き叫ぶことから名づけられた「イタイイタイ病」は、昭和三〇(1955)年に初めて新聞で報道された。後に上流にある神岡鉱山から排出されたカドミウムが原因であることが判明し、昭和四三年に患者・住民が裁判を起こし、昭和四六年、公害病としては日本で初めて住民側が勝訴した四大公害病の一つだ。富山県立イタイイタイ病資料館は、この公害病の恐ろしさと克服の歴史を学び、環境と健康の大切さについて深く考えることができる学習施設。昔の暮らし、発生と被害の実態、原因究明、裁判の動き、患者の救済、環境対策などを、展示物やジオラマ、映像などでわかりやすく説明している。スタッフによる解説や音声ガイド、ワークシート、語り部による講話も活用できる。

○国宝 瑞龍寺

瑞龍寺(ずいりゅうじ)は高岡市にある曹洞宗の名刹で、加賀藩二代藩主前田利長(としなが)の菩提を弔うため、三代藩主利常(としつね)によって江戸時代初期に約20年かけて造営された。総門から入ると、高さ18m、堂々たる構えの山門(国宝)が出迎える。山門をくぐると広い中庭の青々とした芝生の先に総欅(けやき)造りの仏殿(国宝)が見える。ご本尊の釈迦如来と文殊菩薩(もんじゅぼさつ)、普賢(ふげん)菩薩の三尊を拝観して、奥へ進むと法堂(国宝)がある。伽藍の中で最も大きい総檜(ひのき)造りで、格天井(ごうてんじょう)に描かれている狩野安信(かのうやすのぶ)の四季の百花草の絵も見逃せない。隣の間にある像は烏枢沙摩明王(うすさまみょうおう)で、不浄を浄化する「トイレの神様」とも呼ばれる。瑞龍寺は、総門、山門、仏殿、法堂が一直線に配列され、周りを回廊が囲み、禅堂と大庫裏(おおぐり)(台所)が左右対称に置かれている、整然とした伽藍配置だ。あいの風とやま鉄道・高岡駅から徒歩約10分、市内の班別学習の場として探訪したい。

○金屋町 鋳物工房見学・体験

慶長一六(1611)年、前田利長が町の繁栄を図るために7人の鋳物師を呼び寄せたことから始まった伝統産業・高岡銅器。石畳が美しい千本格子(ごうし)の家並みが続く金屋町(かなやまち)重要伝統的建造物群保存地区は鋳物発祥の地。150年の歴史がある工房「利三郎(りさぶろう)」では、錫(すず)の鋳物製作体験ができ、オリジナルの風鈴や箸置き等を作ることができる。砂型に好きな絵や文字を鉛筆で書き、それを釘でなぞる。型を整えたら、熱して融解した錫を流しこむ。冷え固まったら型を外し、やすり等で形を整えて完成。その場で図案を考えると時間がかかるので、事前に用意しておくとスムーズに進むだろう。所要時間は約30分、受入れ人数は20~ 40人、料金は3、300円~。
源ますのすしミュージアム 駅弁のかけ紙の展示
イタイイタイ病資料館 映像資料で環境対策を学ぶ
瑞龍寺 山門
金屋町千本格子の家並み
福井県
○福井県立一乗谷朝倉氏遺跡博物館

一乗谷(いちじょうだに)朝倉氏遺跡は、戦国大名朝倉氏が越前の領国支配の拠点としていた都市の遺跡。館跡や庭園跡、道路などの遺構が良好に残っていて、戦国時代の城下町のまちなみを忠実に復元した全国的にも稀な大規模遺跡だ。博物館は一乗谷の入り口に位置し、2022年10月に開館した。1階の遺構展示室では、博物館建設時の事前発掘調査で偶然見つかった石敷遺構を、発掘されたままの姿で間近に見られる。2階の基本展示室には、生活用具、武器、武具などの出土品の展示や、城下町の精巧な巨大ジオラマがあり、人々の日々の暮らしぶりを知ることができる。最大の見どころは、原寸大に再現された朝倉義景の館(一部)の展示だ。接客のための会所や、座敷飾り、中庭の花壇などが正確に再現されていて、朝倉氏全盛期の栄華が感じとれる。

○曹洞宗大本山 永平寺

永平寺は、寛元二(1244)年、道元禅師によって開かれた、禅宗・曹洞宗の大本山である。70余りある伽藍(がらん)(建物)のうち、七堂伽藍と呼ばれる主要な建物がある。修行僧の出入口「山門」、生活そして修行の場である「浴室」、「大庫院(だいくいん)(台所)」、ご本尊釈迦牟尼仏(しゃかむにぶつ)を中央に、左右に阿弥陀仏と弥勒菩薩(三世如来として、過去世・現在世・未来世、三世の釈迦如来を奉安する)が祀られている「仏殿」、説法や朝のお勤めを行う「法堂(はっとう)」、坐禅・食事・就寝の場である「僧堂」、「東司(とうす)(お手洗い)」の順で拝観した。「傘松閣(さんしょうかく)」の天井に描かれた230枚の花や鳥の色彩画も見応えがある。永平寺には、現在約80名の修行僧がいる。希望すれば坐禅体験ができる。坐禅を学び、静かに自分と向かい合う非日常の時間を体験してみるのもいいだろう。

○勝山自然塾(スキージャム勝山)

スキージャム勝山は、冬季はスキー修学旅行でも賑わう西日本最大級のスキー場。そのグリーンシーズンに行われるのが「勝山自然塾」。脚本家・倉本聰氏が北海道・富良野で始めた「自然塾」は、豊かな大自然の中で4つのプログラムを体験し、将来の地球環境を考えるものだ。まずは直径1mの地球の模型を用いた「石の地球」で、地球の構造や地球と太陽の関係などを分かりやすく見ていく。「地球の道」では、地球誕生から46億年の歴史を460m(1mが1000万年)の自然道を歩きながらガイドが解説する。化石燃料や人類が生まれた時期を知り、地球を守っていくためにどうすべきかを考えるきっかけになるだろう。目隠しで裸足になり、芝生や砂利などの工夫された道を歩く「裸足の道」、森の大切さを学ぶ「緑の教室」では、身体全体で自然の大切さを学ぶことができる。自然の中で心も身体も開放されながら学ぶこのプログラムは、生徒たちにとって五感を使った深い学びにつながるだろう。

○福井県立恐竜博物館

国内の恐竜化石の大部分を産出している勝山市にある世界三大恐竜博物館の一つ福井県立恐竜博物館は、福井県随一の人気観光スポットだ。取材日も夏休みとあって、家族連れやカップルなどで賑わっていた。今年7月にリニューアルし、高さ9メートル・幅16メートルの大型スクリーンをコの字に配置し、実物大の恐竜を投影する「3面ダイナソーシアター」や、化石クリーニング等の体験ができる「化石研究体験室」が新設された。全身骨格標本や実物大の動くジオラマなど従来の展示も充実が図られ、まるで恐竜の生きた時代にタイムスリップしたかのような展示は迫力満点だ。実際の発掘現場にほど近い「野外恐竜博物館」では、発掘現場の見学や発掘体験など、リアルな体験ができる。また、博物館に隣接した勝山市が運営する「勝山恐竜の森」でも、実際に化石発掘作業が行われている現場から運ばれてきた石から化石を発掘する体験ができる。
朝倉義景の館の原寸大再現
永平寺 中雀門
勝山自然塾 直径1mの「石の地球」
福井県立恐竜博物館
○うるしの里会館

福井県は、国内生産日本一の鯖江(さばえ)市の眼鏡をはじめとして、モノづくりが盛んな土地だ。その鯖江市で、業務用漆器のシェア日本一を誇るのが「越前漆器」。うるしの里会館(越前漆器伝統産業会館)では、漆器の製造工程や伝統工芸士による実演を見学することができる。ここでは、手鏡や小物入れなどに金箔を筆で描いていく、漆器の絵付けを体験した。図版は用意されたものを写すこともできるため、絵が苦手な生徒でも取り組みやすい。細く繊細な線をきれいに引くのはとても難しいが、友達と出来栄えを比べながら、楽しんでできる体験だ。所要時間は20~30分程度、受入れ人数は120人まで、料金は1、650円。

○越前和紙の里

1300年以上の歴史と種類の豊富さ、品質の高さを誇り、日本初の政府紙幣「太政官札」にも使用された「越前和紙」。越前市は、約40の工場が軒を並べ、29名の伝統工芸士がいる日本最大の和紙産地だ。越前和紙の里の「卯立(うだつ)の工芸館」では、古民家の中で伝統工芸士と触れ合いながら、紙漉きの技を見学できる。福井のモノづくりの現場には、近年、若いデザイナーや職人が加わっていて、ここでも案内してくれたのは若い職人さんだった。越前市では、小学校の卒業証書は自分で漉いた越前和紙を使用するそうで、和紙の手漉き体験は「パピルス館」でできる(所要時間20~40分、料金600円)。また、「紙の文化博物館」では、越前和紙の歴史や文化が学べ、色とりどりの和紙の見本がずらりと並ぶ。

○福井県年縞博物館

福井県年縞(ねんこう)博物館は、若狭(わかさ)の名勝三方五湖(みかたごこ)のほとりに2018年にオープンした。「年縞」とは、湖沼などの底に長い年月をかけて堆積した堆積物のことで、1年に約0.7mmの層が形成され、縞模様をつくるので年縞という。2階には、三方五湖の一つ水月湖(すいげつこ)の年縞7万年分の実物標本が、ガラスに圧着され廊下に沿って一直線に展示してある。その長さは圧巻の45m。年縞は1年に1層形成され、その縞から過去の気候変動や自然災害を知ることができる。また、年縞の中にある落ち葉の化石に含まれる放射性炭素の量を調べることにより得られたデータは、年代測定の「世界標準のものさし」として、考古学や地質学における年代決定の精度を飛躍的に高め、その価値は中学校の理科や社会科の教科書にも掲載されている。7万年間の地球の歴史や研究の様子などを、ナビゲーターがわかりやすく解説してくれる。

○人道の港 敦賀ムゼウム

敦賀(つるが)港は、明治から昭和初期にかけてヨーロッパとの交通拠点である国際港として繁栄した歴史を持つ。人道の港 敦賀ムゼウムは、当時敦賀港にあった4棟の建物を復元し、2020年にリニューアルオープンした。最初に「シアタールーム」の映像で、敦賀港にポーランド孤児とユダヤ難民が上陸した経緯や歴史的背景を知る。「ポーランド孤児」のコーナーでは、1920年代に過酷なシベリアから救出されたポーランド孤児763人を、当時の市民が温かく迎え入れた史実を紹介している。「ユダヤ難民」のコーナーでは、第二次世界大戦中にリトアニアの日本領事代理・杉原千畝(ちうね)が発給した「命のビザ」で救われたユダヤ難民が上陸した史実を、市民の証言やエピソード、資料で学ぶ。敦賀でこそ学べる命や人権、平和の尊さ。ぜひ訪れたい施設だ。
うるしの里会館 漆器の絵付け体験
越前和紙の里 紙漉きの様子
福井県年縞博物館 長さ45mの年縞の実物標本
人道の港 敦賀ムゼウム外観
宿泊施設情報
○ロイヤルホテル富山砺波

富山県西部に位置し、世界遺産五箇山(ごかやま)、立山黒部アルペンルート、金沢、能登半島等への活動拠点としても便利な砺波(となみ)市郊外にあるリゾートホテル。教育旅行は400名まで受入れ可能で、直線的な間取りは生徒の様子がわかりやすく、使い勝手のよいホテルだ。

○ホテルフジタ福井

JR福井駅から徒歩8分の場所に位置し、福井城址等にも近く、観光拠点としても便利な場所にあるシティホテル。県内最大級の客室数(354室)と宴会場等を備え、大人数の教育旅行にも対応できる。
ロイヤルホテル富山砺波
ホテルフジタ福井
来年3月16日に北陸新幹線が敦賀まで延伸開業されることになり、東京―敦賀が最短3時間8分と、関東地方からのアクセスが格段に良くなる。また、関西地方からのアクセスも、敦賀での新幹線への乗り換えで、金沢や富山への所要時間が短縮される。広域での周遊がよりしやすくなる北陸3県は、歴史・文化・自然・産業と、バラエティに富んだ学習や体験が可能な土地だ。さまざまな方面からの教育旅行の訪問先として検討に値する。

※北陸3県の修学旅行に関する情報は「北陸修学旅行ナビ」をご覧ください。

【問い合せ先】
(公社)とやま観光推進機構
TEL:076―441―7722
(公社)福井県観光連盟
TEL:0776―23―3677
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