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月刊「教育旅行」掲載記事ブログ

視察レポート

フィリピンの語学学校視察旅行に参加して(2023年8月号掲載)

2024-02-02
文・写真=(公財)日本修学旅行協会 国際部長 吉尾 道彦
月刊「教育旅行」2023年8月号掲載
※本記事中の情報は執筆当時のもので、その後変更されている場合があります。
最新情報は問い合せ先にご照会ください。


2020年初からの新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)の世界的拡大により、修学旅行、語学研修、その他テーマ別研修など様々な形で拡大・定着しつつあった海外への教育旅行がほとんど実施できなくなった。そのことがグローバル教育を志向する学校や関係者、そして生徒に与えた影響は甚大だった。そのコロナの状況も徐々に和らぎ、2021年秋頃から、訪問先での陽性者の発生等に悩まされる状況はありつつも、海外教育旅行は少しずつ再開されてきた。2023年に入ってからは、多くの中学校・高等学校がより積極的にその実施を計画、あるいは予定している。

本年3月初旬、フィリピン観光省主催の現地語学学校視察旅行に参加し、7年ぶりにセブ島とマニラで計5校を訪問する機会を得たので、報告したい。
フィリピンでの英語学習
フィリピンは、費用対効果の高い英語学習ができる場所としての評価が、日本でも定着している。元々は、超学歴社会の中、英語力を集中的・効率的に上げる場所を求めた韓国人により2000年前後に語学学校が開設された。現在でも韓国資本経営の学校が多い。日本では2010年頃から知られるようになり、中国・台湾などの東アジア諸国・諸地域やロシアなどからも、集中的に英語力を高めたいという多くの学生や社会人が集まるようになった。

特徴としては、講師と生徒が一対一で行うマンツーマン教育が基本であること、付属の寮が備えられている学校が多いこと、コロナ以前からオンラインでの教育に対応している学校が多いことなどが知られている。また、フィリピンでは、フィリピン語と並び英語が公用語とされていて、小学校段階から多くの教科が英語で教えられている。そのため、質の高いフィリピン人講師が多く確保しやすいとともに、自分たち自身もノンネイティブスピーカーである講師が「ノンネイティブスピーカーの弱点」を理解した教えを行っていることも、メリットとしてあげられることが多い。

フィリピンでは、コロナの影響により、2020年3月から初中高等教育の学校すべてが閉鎖となり、オンラインのみの教育活動に限定された。学校が再開されたのは2023年になってからと、日本以上に厳しい状態が続いた。語学学校も同様に、オンライン授業を除いて閉鎖に追い込まれ、2022年2月頃から徐々に再開され始めたものの、閉鎖が長引いたことによる経済的な事情により閉校となった学校もある。継続を決めた学校でも、元々の特徴であるマンツーマン教育と感染防止との兼ね合いや、マスクをした場合に口元が見えないといったような要素も含めて課題は多く、試行錯誤の上で徐々に再開してきた。本年3月に訪問した5校も、程度の差はあれ、なお今後の本格再開の入り口という状況だった。

なお、今回の訪問では、LCCであるセブパシフィック航空を利用した。機内での無料飲食サービスはないが、機内持ち込みは自由。成田からマニラやセブへの直行便で所要5時間前後であり、準備さえしておけば問題はないと感じた。
セブ島の語学学校4校への訪問
セブシティを望む
フィリピンでは、首都マニラや、日本からの直行便もありマニラからも車で2時間ほどのクラークなどにも語学学校が多いが、一番多いのがリゾート地としても知られるセブ島である。セブ市はセブ島最大の都市で、同市を中心としたセブ都市圏(Metro Cebu)は250万人以上の人口を持ち、マニラ都市圏に次いで大きい。語学学校は、セブ市や、セブ本島から複数の橋で結ばれ、マクタン・セブ空港がありリゾートホテルが立ち並ぶマクタン島(マクタン市)などに多数ある。
CPILS校 中庭
○Center for Premier International Language Studies(CPILS)【セブ市】

2001年にセブ島で初めて設立された、セブでは最大規模の大型校。中庭にプールを構えた大きな建物の中に、教室・寮・食堂・ジム・売店などの施設が充実している。

ネイティブ講師の数も比較的多く、オーストラリアなどでワーキングホリデーを行う前の勉強に来る人も多いとのこと。TOEICとIELTSのセブ島唯一の試験場でもある。

訪問当日は、1対2での体験授業も受けたが、フィリピン人女性講師の明るくて柔らかい対応に、日本の中高校生も欧米系のネイティブスピーカーの講師よりも緊張せず受講できるのでは、との印象を持った。

重視しているという生徒の国籍バランスは、コロナ前の資料によると韓国(30%)、日本(20%)、台湾(20%)、中国(10%)といった割合だった。7年前にも訪問した学校で、その時はそれら各国・地域からの生徒が学校内を行きかい、非常に活気があったが、まだその姿は多くはなかった。しかし、先の予約は非常に多く入っているとのことで、以前の状態に復する時が待ち遠しいと思った。
Philinter校 マンツーマンのブースが並ぶ
○PHILINTER ACADEMY【マクタン市】

マクタン島にある老舗の学校で、マクタン・セブ空港にも近い。崔仁(チェ・イン)代表は、日本にも15年滞在経験があり、日本事情に詳しく日本語も流暢に話す。コロナで閉校中には、2021年にセブを襲った大型台風の校舎被害もあり、先の運営についてかなり悩んだが、閉校期間を学校設備の更新・改善に充てての再開を決意したとのこと。この学校も7年前に訪問したが、その時に比して、整備完了済みの教室や敷地内の寮の設備は大幅に刷新されていた。また、中庭には生徒用のカフェやテストセンターを備えた建物が建設中で、5月ごろには完成するとのことだった。

コロナ前の数字では、生徒の国籍別は、日本人が30%と一番多く、台湾・ベトナム・韓国・中国が各15%の割合。講師が全員正社員であることも、アピール点の一つとしている。

生徒の受け入れは、今年1月から一部開始しただけで、訪問時に校内には生徒は少人数しかいなかった。しかし、6~8月の予約は満員状態とのことで、生徒は刷新された施設で快適に学べることだろう。
Howdy校の入るビル
○Howdy English Academy【マンダウエ市】

セブ市に隣接するマンダウエ市にあり、マクタン・セブ空港からも車で10分ほどの便利な場所にある。日本人がより学びやすい環境を追求し、日本人生徒に特化して運営しているという点で、今回訪問した他の学校とは異なる特色を持つ日系の学校だ。

訪問時には、まだオンライン対応が中心の形で運営されていたが、日本の英語体験施設TOKYO GLOBAL GATEWAYにも講師を派遣していたとのことだった。

学校が入るビルは、大型の病院及び4つ星のホテルであるマアヨホテルと同敷地内にある。本年1月に、日本人向けの環境をより追及するために現在地に移転したとのこと。同校で学ぶ生徒・社会人・親子留学者達は、その宿泊先として同ホテル、道の向かいにあるコンドミニアム、その他自分で希望する他のホテルから選択して利用する。

病院等の設備の整った大きな施設で、フィリピンで唯一特区認定を受けて日本の医師免許所持者が直接医療行為を行えるジャパニーズクリニックもある。現在一時的に医師が不在だが、戻り次第再開される予定とのことで、医療面で大変安心なことだと思った。授業がある日の昼食は、和食弁当で提供されることも安心要素の一つだろう。

フィリピンでの語学研修は、短い日数で英語力をコスパ良く上げられるという点で高い評価を受けている。その教育を、国内と違和感がない環境で受けられる点は、多少費用は高くなるものの、価値があると感じる。既に昨年、日本から私立高校が数校研修に利用したのも、これらの点への評価もあるかと考える。


CELLA校 マンツーマン授業の様子
○CELLA ENGLISH ACADEMY【セブ市】

施設や寮が高級で親子留学などにも適するプレミアムキャンパスと、よりリーズナブルで日本からの教育旅行では中心的に使うであろうユニキャンパスの二つを持つが、今回は後者を訪問して説明を受けた。

周辺の市街地と塀で隔離された敷地にある一つの大きな建物の中に教室・寮・食堂などがあり、22時の門限も含めて外部からのセキュリティもしっかり確保されている。教室は、マンツーマン用の個室が80ブース、グループ用の教室が15ある。寮は1人部屋から4人部屋まであり、いずれも清潔で、他校と比べても広めの面積が確保されているように感じた。別に外部寮もある。
マニラの語学学校への訪問
○ Enderun College Language Center

マニラの中心部マカティから南東に車で約15分の場所に開発され、治安の良さで知られるボニファシオ・グローバル・シティというビジネス・高級住宅の複合地域の中の、各国大使館・インターナショナルスクールなどが集まるマッキンリーヒルエリアにある。観光・ホテル業の経営などを専門とする大学の付属語学学校だ。施設は大学・高校と共有され、語学専門の学校とは違う、食堂なども含めて落ち着いた雰囲気がある。

2022年度から生徒の受け入れを再開しており、日本人の利用が多いとのことで、同年度の日本からの受け入れ学校として大学12校、高専1校、私立高校5校の名前が挙げられていた。訪問当日も、日本から来た大学生たちがマンツーマンで教育を受ける姿が見られた。

メインの寮は、学校から歩いて3分ほどの所にあるが、学校の前にあるショッピングモールの中を通っても同様に行き来できるのは、気分転換と利便性の両面でいいと思った。24時間警備員が常駐している。学校から徒歩5~ 10分のコンドミニアムを使った一人部屋の寮の扱いもある。
ボニファシオ・グローバル・シティ中心街
Enderun校 正面
視察全般の感想として
日本人が利用するようになった頃のフィリピンの語学学校は、その多くが元々の韓国人の学び方である「スパルタ方式」だったと聞く。正規の講義以外の自習時間が義務付けられ、平日の校外への外出は一切許されないような方式だ。しかし、徐々に生徒の国籍や身分も多様になり、親子留学等も多くなる中で、その方式も多様化してきたと聞く。実際、今回訪問の各学校でも、多様なコースを準備し、学校側のニーズに従来以上に対応してくれるという感触を持った。また、生徒の多様化により、学校で出す食事や教室・寮の設備の改善なども多くの学校で取り組まれてきた。その最大の機会となったのが、コロナによる閉校期間だったようだ。かなりの学校は閉校に追い込まれたが、継続を決めた学校では多くの取り組みが行われた。今回訪問した5校のうち3校は、7年前にも訪問した学校だったが、寮・食堂・教室などの設備が一新され驚いた場面が多くあった。

また、フィリピン、特にマニラに対しては、治安面への不安という固定化したイメージが持たれがちだ。しかし、今回訪問したセブもマニラも、日中の街中ではフィリピン人の温かさと明るさを感じることはあれ、治安について不安を抱く場面は全くなかった。

今回も、現地の関係者から、「マニラの語学学校にも公立高校の予約が入るようになった」とか、「中部地方の公立高校のセブへの修学旅行の手配依頼が来た」といった話を聞いた。

教育旅行では、基本的にその行動先は強く管理されていて、危険な時間帯・地区に行くことは考えにくい。経済レベルが上昇中のフィリピンとは言え、まだまだ探究学習の対象となりうるSDGsに関するテーマも多くある。コロナ後の海外旅行の費用上昇で、既存の行き先の変更を余儀なくされている学校も多いと思うが、語学研修のみならず、修学旅行先としても大いなる可能性を持っているのではないかと、改めて思った。

【問い合せ先】
フィリピン共和国観光省 東京支局
東京都港区六本木5― 15 ―5 フィリピン大使館
TEL:03―5562―1583
e-mail:dotjapan@gol.com

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